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東京高等裁判所 昭和58年(行コ)27号 判決 1985年3月26日

控訴人(被告) 茨城県江戸崎県税事務所長

補助参加人 茨城県知事

被控訴人(原告) 牛久沼観光株式会社

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。 二 当事者双方の主張は、次に付加するほかは、原判決事実欄の「第二 当事者の主張」(別表第一、第二及び第三、第四の各一ないし四を含む。)に記載のとおりである(ただし、原判決三丁表三行目に「取消した」とあるのを「取り消した」と、同五行目から六行目にかけて「取消される」とあるのを「取り消される」と、同丁裏一一行目に「売上」とあるのを「売上げ」と、同四丁裏二行目に「誤まり」とあるのを「誤り」と、同一二行目に「取消される」とあるのを「取り消される」と、同五丁表四行目に「取消」とあるのを「取消し」と、同八行目に「取消された」とあるのを「取り消された」と、同一〇丁裏九行目に「取消される」とあるのを「取り消される」と、同一一丁表一行目に「一月一日より」とあるのを「一月一日から」とそれぞれ改める。)から、これを引用する。

(控訴人の陳述)

1  元来、料飲税の課税標準額は、公給領収証の交付の事実をもとにして把握されるべきものである。しかるに、本件においては、被控訴人は本件処分対象期間中、公給領収証を作成・交付すべきときに当該公給領収証を適正に作成・交付していないことが茨城県職員の特別実態調査によつて現認された。そこで、控訴人は、被控訴人から任意提出を受けたレジペーパーの記載に基づいて課税標準額を認定・算出したのであり(原判決事実欄第二の三参照)、レジペーパーには毎日の売上げがその都度すべて記載されており、レジペーパーはいわゆる直接証拠であるから、この記載に基づいて認定・算出された課税標準額は実額であり、したがつて本件課税はいわゆる実額課税にほかならない。もつとも、レジペーパーの記載からは、うなぎ蒲焼のうちみやげ物として売られたものと店で料理として提供されたものの区分及び飲食行為をした一組の客の人数は明らかでなく、そのため控訴人は、課税標準額の認定・算出に当り前記のような方法を採用したが、これは証拠に基づく事実の認定に必然的に伴うある事実から他の事実を推認するという問題の範囲内の事柄であつて、右のような方法によつて認定・算出された課税標準額が実額であり、本件課税がいわゆる実額課税であることを否定する根拠となるものではない。

2  仮に右のような方法によつて認定・算出された課税標準額をもつて実額ということはできないとしても、本件においては、公給領収証が適正に作成・交付されておらず、課税標準額を実額で把握することができないのであるから、課税標準額を推計の方法により算出する、いわゆる推計課税が許されるところ、レジペーパーの記載をもとにし、前記の方法によつてした課税標準額の推計は一応の合理性を有するものとして是認し得るところである。被控訴人は、控訴人が前記方法によつて算定された課税標準額についてさらに一割五分ないし二割の調整(見直し)をしたことをもつて合理的根拠に欠けると非難するが、右調整は、推計には必然的に誤差が生ずるところから、これを納税義務者の利益に帰させる趣旨で恩恵的に行つたものであり、元来、これを行わなくても推計方法の合理性は何ら害われることはないのである。

(被控訴人の陳述)

1  レジペーパーには毎日の売上げがその都度すべて記載されていることは事実であるが、しかし、右記載からでは、うなぎ蒲焼のうちみやげ物として売られたものと店で料理として提供されたものの区分及び飲食行為をした一組の客の人数は不明である。したがつて、右記載から課税標準額を実額で把握することはとうてい不可能であり、控訴人主張の方法による課税標準額の算定は一種の推計とみるべきであつて、被控訴人は、第一審以来、つとにこのことを指摘しているのである。

2  控訴人は、被控訴人の右指摘にもかかわらず、控訴人主張の方法によつて算定された課税標準額が実額であり、本件課税はいわゆる実額課税であると主張して譲らなかつた。したがつて、たとえ仮定的にしろ、控訴審の段階に至つてはじめてその主張の課税標準額が推計の方法によつて算定された、いわゆる推計課税によるものである旨を主張するのは故意又は重大な過失により時機に遅れた攻撃防御方法の提出であつて、これにより訴訟の完結が遅延するから却下されるべきである。

仮に右主張が認められないとしても、控訴人が推計課税をするについて採用した推計の方法は次の点において合理性に欠けるものである。すなわち、(1)控訴人は、レジペーパー記載のうなぎ蒲焼のうちみやげ物としての蒲焼折詰は二人前入り金一、二〇〇円のものが基本型であるとし、レジペーパーに金一、二〇〇円と記載されているうなぎ蒲焼はみやげ物としての蒲焼折詰とみて、課税対象外としたというのであるが、みやげ物としての蒲焼折詰は二人前入りが金一、二〇〇円から金一、三〇〇円、三人前入りが金一、八〇〇円から金二、〇〇〇円なのであるから、レジペーパーに金一、二〇〇円と記載されたうなぎ蒲焼を課税対象外としても、みやげ物として売られたうなぎ蒲焼の全部が課税対象外とされたことにはならないこと、(2)控訴人は、被控訴人の店で供される主たる料理であるうなぎ料理の数をもとにして飲食行為をした一組の客の人数を割り出したというのであるが、被控訴人の店はいわゆるドライブインであつて、家族連れの客が多く、子供が二人で一人前のうなぎ料理を食することや、客の一部がうなぎ料理を食し、他は飲物だけをとるというような場合もあり、うなぎ料理の数だけで飲食行為をした一組の客の人数を割り出すことはできないこと、(3)控訴人がその主張の方法によつて算定した課税標準額についてさらに一割五分ないし二割の調整(見直し)をしたのは単に納税義務者に対する恩恵としてしたものではなく、右(1)、(2)のような事情のあることを無視できず、調整をしなければ、推計方法の合理性が失われると判断したからであるところ、その調整の割合及び方法は控訴人の全くの主観によるものであつて、何らの客観的合理性も有していないこと、以上の諸点に照らして控訴人が採用した推計の方法は合理性に欠けるものである。

三  証拠<省略>

理由

一  被控訴人の地位及び被控訴人による納入申告、控訴人による本件更正処分及び過少申告加算金額賦課決定処分並びに被控訴人の審査請求とこれに対する茨城県知事(補助参加人)の決定に関する被控訴人の請求原因1ないし3の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、控訴人による本件更正処分及び過少申告加算金賦課決定処分の適否について判断する。

一般に料飲税は特別徴収の方法によつてのみ徴収され(地方税法一一八条一項)、その特別徴収義務者は、遊興、飲食及び宿泊並びにその他の利用行為があつた際にその料金及び料飲税の全部を受け取つた場合においては、料金及び料飲税を受け取つたことを証する書類(公給領収証)及びその写を作成して公給領収証を料金及び料飲税を支払つた者に交付するとともに、その写を保管すべきこととされている(同法一二九条一項)。したがつて、料飲税の課税標準額は、特別徴収義務者のもとに保管される公給領収証の写によつて容易にその実額を把握することができるわけであるが、そのためには料飲税の徴収、公給領収証の作成・交付及びその写の保管がもれなく適正に行われることが必要である。これを本件についてみるに、いずれも成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二号証、第三、第四号証の各一、二、原本の存在及び成立ともに争いのない乙第六号証の一ないし五、昭和五〇年一〇月ころ撮影にかかる「預り証」と題する書面の写真であることに争いのない乙第七号証の一、二、原審証人鮎川弘の証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  茨城県江戸崎県税事務所では、毎年の年初に、料飲税の特別徴収義務者である管轄区域内の料理飲食店等の中から前年度における料飲税の課税標準額及び税額の納入申告が過少ではないかと思われる二〇ないし三〇の店舗を選び出し、重点的に特別(実額)調査をする方針がとられているところ、昭和四八年には被控訴人もその対象店舗として抽出された。そして、同年七月五日と同月二五日の二回にわたり特別調査が実施されたのであるが、その方法は、二人一組の調査員が客を装つて店を訪れ、店舗の立地条件、客席や従業員の状況、客の入り具合及び客層を実地に見分するほか、実際に飲食物を注文して飲食し、料金の精算方法及び公給領収証の作成・交付の状況を確かめるというものであつた。その結果、二回の調査においてそれぞれ二人の調査員は免税点(当時は一人一回につき代金九〇〇円であり、これを超える場合には代金の一〇〇分の一〇の税率で課税される)を超える飲食物の注文をしたが、料飲税は徴収されず、もとより、公給領収証の作成・交付もなかつた。このことは、調査員の観察によるかぎり、他の客に対しても同様であり、そればかりか、被控訴人の店では客は予め勘定処で飲食行為の内容を係員に告げ、代金を精算する仕組みになつているため、一組の客が飲食物を追加注文した場合、追加注文分の飲食物は、他の一組の客が新たに注文したのと区別がつかず、一組の客の当初注文分と追加注文分を合せれば、その料金は免税点を超えるのに、追加注文分が同じ一組の客によるものか、別の一組の客によるものかの区別がつかないため、結局、料飲税は徴収されず、公給領収証作成・交付の機会が失われるという場合もあり得るという料金精算の仕組上の問題もあることが判明した。

2  右調査の結果、茨城県江戸崎県税事務所においては、被控訴人の店では公給領収証の作成・交付が適正に行われておらず、その写をもとにした被控訴人の納入申告は正当でないとの判断に立ち、昭和四八年八月二三日ころ被控訴人からレジペーパー綴、公給領収証(写)綴及び法人決算書(昭和四七年度分)の任意提出を受け、主として右レジペーパーの記載をもとに、昭和四七年一〇月分から同四八年七月分までについて料飲税の課税標準額及び税額を割り出した。その方法は次のとおりである。

(1)  レジペーパーには、一組の客が支払つた料金の内訳が一品ごとに品目と金額が記載され、最後に支払つた料金の合計が記されている。被控訴人の店では、店舗内で飲食する料理や飲物のほか、みやげ物として納豆、果物類及びうなぎ蒲焼折詰等も売つており、これらの売上げもレジペーパーに記載されているところ、これらの売上金は料飲税の課税対象ではないので、まず、これを除外した。ただ、この場合、問題は、レジペーパー上では、みやげ物として売られるうなぎ蒲焼折詰と、店で料理として出されるうなぎ蒲焼(特上)、同(きも吸付き)、同(並)、うなぎ定食及び川魚定食とが一括され、品目として「焼」の記号のみをもつて表示されているため、即座には両者の区分をつけられない。しかし、料金表によると、みやげ物としてのうなぎ蒲焼折詰は二人前入り金一、二〇〇円が基本であり、料理としてのうなぎ蒲焼(特上)が金三、〇〇〇円、同(きも吸付き)が金一、〇〇〇円、同(並)が金八〇〇円、うなぎ定食が金一、三〇〇円、川魚定食が金一、六〇〇円であつて、それぞれ料金を別異にしているところから、レジペーパーに品目として「焼」と記されたもののうち金額が一、二〇〇円であるものはみやげ物としてのうなぎ蒲焼折詰とみて、これを課税対象外とした。

(2)  レジペーパーには一組の客の人員数についての記載はなく、したがつて、当該飲食行為が何名によつてされたかは明らかでない。しかし、被控訴人の店での営業は「うなぎ料理」に主力がおかれていることから、一組の客の飲食行為の内容が「うなぎ料理」のみである場合にはその数をもつて人員数とした。一組の客の飲食行為の内容中に「うなぎ料理」とそれ以外の料理とがある場合には、その品目及び金額から判断して「うなぎ料理」を食した客と「うなぎ料理」以外の料理を食した客が別人であるとみられるときは、両料理の数をもつて人員数とした。そして、一組の客の飲食行為の内容中に主力の「うなぎ料理」が含まれていない場合及び「うなぎ料理」が含まれていても各品目ごとの一品当りの金額が免税点以下である場合には、確実を期する趣旨ですべて課税対象から除外した。

(3)  次に右のようにして割り出した一組の客の人員数で飲食料金の合計額を除した金額が免税点を超える場合に右合計額を課税標準額とする建前をとつたのであるが、この場合にも、前記の方法によるみやげ物としてのうなぎ蒲焼折詰と店で出される「うなぎ料理」との区別及び一組の客の人員数の割出しには当然に誤差が生ずることが考えられるから、より一層の確実を期するため、前記の建前に当てはまる飲食行為について逐一再検討(見直し)を加え、そのうち各月ごとに一割ないし二割の範囲で疑問の残るものを課税対象から除外した。

3  右方法によつて割り出されたのが原判決添付別表第二に記載の「更正課税標準額」及び「更正税額」であり、本件更正処分及び過少申告加算金賦課決定処分は、これに基づいてされたものである。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

ところで、控訴人は、右別表第二記載の「更正課税標準額」は実額であり、本件更正処分は、いわゆる実額課税として適法である旨主張する。しかしながら、本件レジペーパーには「焼」の記号で表示された品目がみやげ物として売られたうなぎ蒲焼折詰なのか、それとも店で出された「うなぎ料理」なのかの区分及び一組の客の人員数の記載はなく、したがつてレジペーパーの記載からでは、もともと課税標準額を実額で把握することは不可能なことなのであつて、右「更正課税標準額」をもつて実額とすることはできない。むしろ、前認定の事実によれば、右「更正課税標準額」は、本件レジペーパーの記載からでは課税標準額を実額で把握できないため、右記載及び品目の定価からレジペーパーに「焼」の記号で表示された品目がみやげ物として売られたうなぎ蒲焼折詰であるか否か、また飲食行為をした一組の客の人員数が何人であるかを推認し、右人員数とレジペーパーに記載された一組の客の飲食行為の内容とから割り出されたものであるから、本件更正処分は、いわゆる推計課税のひとつとみるのが相当であり、これを実額課税とする控訴人の主張は理由がない。

三  そこで、進んで、本件更正処分を推計課税のひとつとした場合、これが適法なものといえるかどうかについて検討するに、一般に、推計課税は、帳簿その他の資料の備付けがないとか、それがあつてもその内容に信憑性がない等のため、課税標準額を実額で把握できない場合にかぎり許されるものと解されている。

これを本件についてみるに、前認定の事実によれば、被控訴人の経営する飲食店「牛久亭」においては、料飲税の徴収及び公給領収証の作成・交付が適正に行われているとはいえず、かなりのもれのあることが推認されるから、被控訴人の保管する公給領収証写によつては料飲税の課税標準額を実額で把握することが困難であり、ほかに課税標準額を実額で把握することのできる帳簿その他の資料の備付けもないのであるから、本件においては、課税標準額を推計の方法によつて算定することが許されるというべきである。

そして、本件レジペーパーは、被控訴人の店でのみやげ物及び飲食物の売上げをその都度品目ごとに逐一記録したものであつて、その営業活動の実体を端的に示す唯一の資料といつても過言ではないから、控訴人が本件レジペーパーの記載をもとにして課税標準額を推計したのは当を得た措置であり、控訴人が採用した前認定の推計方法には、本件レジペーパーに「焼」の記号で表示された品目についてのみやげ物としてのうなぎ蒲焼折詰と店で出された「うなぎ料理」との区別及び飲食行為をした一組の客の人員数の割出しの点で実数との間にどの程度の誤差を生ずるものか、またその誤差の調整方法及びその限度が前認のようなもので足りるかどうかなどについて問題とする余地がないではないが、本件においては、ほかにより合理的な方法を見出すことは困難であり、したがつて、控訴人のした課税標準額の推計は一応の合理性を有すると認めるのが相当である。

右のように推計課税においては、推計の方法につき一応の合理性が認められる場合には、これによる結果を争う側において、右方法により推計された課税標準額が誤りであり、実際の課税標準額がこれとは異なつていることを客観的、具体的に明らかにすべきであり、この点についての主張・立証がないかぎり、右方法により推計された課税標準額をもとにした課税処分は適法なものと認めるのが公平の観念に照らし相当というべきであるところ、本件においては、被控訴人は、控訴人が推計した課税標準額についてただいたずらに不服を唱え、またその推計方法について存する問題点をとりあげて非難するのみであつて、右課税標準額が実際のそれと異なることにつき何ら客観的、具体的な主張・立証をしないのである。この点について、被控訴人は、控訴人に任意提出した本件レジペーパーがいまだに返還されておらず、そのために客観的、具体的な主張・立証の手段を奪われていると主張するところ、本件レジペーパーの所在が現在不明であることは弁論の全趣旨に照らして明らかであるが、本件全証拠によつても、本件レジペーパーがすでに被控訴人に返還されているものか否か、いずれとも断定し難く、いずれにしても、本件レジペーパーの所在が明らかでないため、被控訴人が右客観的、具体的主張・立証の手段としてこれを利用し得ないということから直ちに本件更正処分を不適法なものとすることはできない。してみると、本件更正処分及びこれをもとにした過少申告加算金賦課決定処分は、いわゆる推計課税によつたものとして適法性を有するものというべきである。

なお、被控訴人は、控訴人において原審では本件更正処分が実額課税であることのみを主張していたのに、当審にいたつて、突如として推計課税の主張をするのは、故意又は重大な過失により時機に遅れた攻撃又は防御方法の提出に当るから、右主張は却下されるべきであるというが、当審での控訴人の主張は、原審において前認定の方法により算定された課税標準額による課税が実額課税であると主張したのに対し、そうでないとしても、推計課税である旨の主張を付加したにとどまり、原審での主張とは別個、独立の攻撃又は防御方法を提出したわけではないし、そのために訴訟の完結が遅延するというものでもないから、被控訴人の主張は採用できない。

四  よつて、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであり、これと結論を異にする原判決を取り消したうえ、控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣學 大塚一郎 佐藤康)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

1 被告が昭和四九年一月八日付で原告に対してなした昭和四七年一〇月分から昭和四八年七月分までの料理飲食等消費税の更正決定処分(ただし、税額金九〇万九二三五円を超える部分)及び過少申告加算金額賦課決定処分(ただし、茨城県知事の昭和五一年八月四日付裁決により一部取消された後のもの)は、これを取消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 原告

主文と同旨の判決。

二 被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一 原告の請求原因

1 原告は、昭和四〇年七月ころから竜ケ崎市庄兵衛新田三八一―一五において飲食店「牛久亭」を経営し、料理飲食等消費税(以下「料飲税」という。)の特別徴収義務者として登録されている会社であるが、昭和四七年一〇月分から昭和四八年七月分までの料飲税につき、別表第一記載のとおり、納入申告を行なつた。

2 しかるに、被告は、昭和四九年一月八日付で、右各月分の料飲税につき別表第二記載のとおりの内容の更正決定処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算金額賦課決定処分を行なつた。

3 そこで原告は、同年三月八日右各処分につき、茨城県知事(補助参加人)に対し、審査請求を行なつたが、同知事は、昭和五一年八月四日付で、右各処分のうち、昭和四八年七月分に対する過少申告加算金額の決定を取消したのみで、その余の請求を棄却した。

4 しかしながら、本件各処分には以下に述べるとおり、取消されるべき違法がある。

(一) 本件更正処分における課税標準額の算定根拠は極めてあいまいであつて、とうてい納得しがたい。

ことに、茨城県江戸崎県税事務所鮎川弘係官は、本件更正処分前である昭和四八年一一月末ころ、原告代表者に対し、「更正決定税額と申告税額との差額は約二一〇万円になるが今年中に納めるなら一八〇万円に負けてやる。」と申し向けており、さらに同年一二月中旬ころにも同係官は「来年二月中に納めるなら一二〇万円に負けてやるから納めなさい。」等と申し向けている。さらに、同人は、本件更正処分後である昭和四九年九月ころ、原告が依頼している竜ケ崎市の木谷税務会計事務所において木谷税理士に対し、「あれだけ負けてやつたのだから納めると思つた。」とまで述べている。

右の事情は、被告の本件更正処分における課税額の算定根拠が極めて不明確であることを示すものである。

(二) 被告は、本件更正処分に際し、非課税であるみやげ物の売上を除外せず、これを課税対象額に算入している。

すなわち、原告は、「牛久亭」において、みやげ物として水戸納豆、メロン等のほか、うなぎの蒲焼の折詰を売つており、その売上高は昭和五一年度においては約八七五万円にものぼり、「牛久亭」における総売上高の約七・五パーセントにも達している。

しかるに、被告は、本件更正処分に際し、みやげ物、ことに蒲焼の折詰について何ら考慮していない。このことは、前記鮎川係官が原告代表者に対し「飲食行為とそうでないものとの区別は分からないので全部課税対象にしてしまつた。」と述べていたことからも明らかである。

(三) 被告からの要請により、原告が被告に対し任意提出した金銭登録機売上レシート(以下「レジペーパー」という。)及び公給領収証控を被告は未だに返還しない。

本件更正処分に対し、原告がこれを争い、個々の課税対象の認定について、その誤まりを指摘するためには、どうしてもこのレジペーパーが必要である。しかるに、被告は、実額課税と称して具体的根拠もなく課税対象額を認定しながら、原告がこれを争うための最大にして唯一の武器であるレジペーパーを返還しないのは、著しく不公正な課税方法であつて、税法の根本原理にもとる違法なものである。

(四) 本件過少申告加算金額賦課決定処分は、本件更正処分に基づき、これが正当であることを前提にして算出されたものであるから、前記の如く、本件更正処分がその算出根拠を欠く違法なものである以上、本件加算金額賦課決定処分も違法であるから、取消されるべきである。

5 よつて、原告は本件更正処分のうち、原告が申告した課税額(合計金九〇万九二三五円)を超える部分及び過少申告加算金額賦課決定処分(ただし、審査請求により既に取消された部分を除く)の取消を求める。

二 右請求原因に対する被告の答弁

1 請求原因1ないし3はすべて認める。

ただし、審査段階で、昭和四八年七月分の過少申告加算金額賦課決定処分が取消されたのは、本来、不申告加算金を課すべきであつた旨が判明したが故である。

2 同4冒頭部分は争う。本件更正処分は、後に述べるように適正である。

同4(一)は否認する。

すなわち、本件更正処分は、以下に述べるように、江戸崎県税事務所もしくは茨城県庁税務課の係官らが、原告から任意提出を受けた原始伝票すなわちレジペーパーの記載に基づき調査票に直接転記整理するに当り、明らかに課税対象外と認められるものを除外したのであるが、さらに再度これに見直しを加え、その中から重ねて課税対象外と認めるべきものをできるだけ原告側に有利な観点から拾い出して非課税扱いとするように努め、このようにして最終的に原告の本件課税対象期間における総売上額に対する実に六四・八四パーセントを非課税分と認定したものであつて、この認定方法はあくまでもレジペーパーから直接転記して作成された資料に基づくものであるから、これを真の意味の「実額課税」と呼ぶことのできるものである。

また、鮎川係官が原告代表者に対し述べた内容は、昭和四八年一一月の場合は、「現在集計中であるので最終的にどの位になるのかはつきりしたことは言えない。しかし現在までに集計したところで見通しを言えば、更正増差額で二〇〇万円をオーバーするのではないかと考えられる。」という趣旨のものであり、同年一二月の場合は、「調査期間の全体で更正増差額はほぼ一七〇万円位になりそうである。」という趣旨のものであつた。

しかして、被告が料飲税の更正処分を行うに当つては、調査の対象期間について、いつたんその更正増差額の総額を把握したうえで、その納税者の過去の申告の状況、調査時における誠意の有無、更正時における経済状態、今後の申告状況の見通し等を総合的に勘案して処分の範囲、程度を決定するのであり、このことは適正な税務行政運営上むしろ当然である。したがつて、鮎川係官の述べた金額の内容が、その述べた時点により、前後一貫しない点をとらえて、その処分の根拠が不明確であると主張するのは失当である。なお、右鮎川係官が木谷税理士に面接したのは昭和五〇年七月以降のことであり、また右鮎川係官は、被告の命を受けて本件更正処分に関する事務を執行していた係官であつて、自己の一存で処分の額を左右することができるようなことを言える立場になかつたものであり、ましてや、原告主張のような「負けてやる」等と商取引まがいの言辞を弄するようなことは絶対にしていない。

同4(二)も否認する。被告は、本件更正処分に際しては、みやげ物の売上げについては、これを課税対象外として算定している。

すなわち、みやげ物のうち、納豆や果物類は、レジペーパー上、特別にとりまとめて明記されていたので、これを課税対象外として当初から課税対象から除外している。たばこ等の売上げについても同様である。

またみやげ物のうち、レジペーパーの記録上一見して明らかではない蒲焼の折詰については、被告としては、「焼」と記録されているもののうち、それがみやげ物たる蒲焼の折詰と判断されうる限り、非課税として集計から除外するように努めた。この結果、レジペーパーの写の現存する昭和四八年四月二日、三日、一六日、一七日、二六日の五日分(乙第六号証の一ないし五)についてみても「焼」と記録された分の総売上高(ただし、三五〇円と記載されているのは単価表から考えて、鳥のももと判断されるので除外。)三三万九八〇〇円のうち、一三万五九〇〇円が非課税とされているのである。

そして、原告主張によると、「昭和五一年度の売上総額の約七・五パーセントに当る約八七五万円が蒲焼の折詰、メロン、納豆等のみやげ物の売上げである。」とのことであるが、本件更正処分においては、右レジペーパーの写の現存する五日間についてだけ見ても、右のように蒲焼に対する非課税対象分だけでも七・五パーセントをはるかに上回る一五パーセントに達していることが明らかである。

したがつて、非課税の対象となるみやげ物の売上げが課税対象額に算入されていることはあり得ないといわなければならない。

同4(三)も否認する。

被告は、本件更正処分の前に実施した調査に際し、原告が提出した書類のうち、「レジペーパー一八束、公給領収証控一三冊、昭和四七年度分法人決算書一部」を預り、その際、原告代表者に対し茨城県職員である訴外馬場昭一郎名義の「預り書」を交付したが、右レジペーパー等の書類は、本件更正処分が完了した後である昭和四九年一月一七日かもしくは同月一八日に、前記鮎川係官が「牛久亭」に赴き、原告代表者不在のため店内に居あわせた女子従業員に一括して返還した。

被告が右レジペーパー等を返還した事実は以下の事実によつても裏付けられる。

すなわち、原告が被告に対して「右書類の返還を受けていない。」と最初に主張したのは、本件更正処分がなされ、原告に対しその旨の通知書が発せられた時から、実に一年六か月も経過した昭和五〇年七月八日である(しかもなお、既に昭和四九年三月、原告は本件更正処分を不服として茨城県知事に対し審査請求をしていたのである。)。原告が、処分に不服をもつていた以上処分の基礎資料となつた右書類が仮に原告に返還されていなかつたとすれば、一年六か月もの間、この返還を被告に要求もせずに放置しておく等ということはとうてい考えられない。

また、原告の当初の返還要求は、前記「預り書」に記載されていたすべての書類についてのものであつたところ、その後になつて、江戸崎県税事務所の係官が原告保管の書類の中から「預り書」記載の書類である昭和四七年度分法人決算書を発見し、その事実を指摘するや、言をひるがえして、「当該法人決算書のみ別に返還を受けた。」旨主張を変更するに至つた。

しかしながら、原告から提出を受けた書類はすべて、江戸崎県税事務所において一貫して一括保管していたものであり、これらの書類の中から法人決算書のみを別個に返還するなどということは考えられない。

さらに原告は、前記鮎川係官が昭和四九年一月下旬に江戸崎県税事務所において「本件更正処分はレジペーパーの記録を基礎として行なわれたものである。」ことを集計票の一部を示しながら説明した際、「処分の内容を突き合わせたい。」旨述べて、右集計票の一部を転写している。本件更正処分がレジペーパーの記録を基礎として行なわれたものであることを認識している以上、原告が転写した集計票の内容を突き合わせる対象は当該レジペーパーそのもの以外には考えられない。したがつて、右時点においては、既に原告が右レジペーパーの返還を受け、これを所持するに至つていたことは明らかである。

以上のごとく、原告が、本件レジペーパーの返還を受けていることは明らかであり、原告が現在も当該「預り書」を所持しており、被告が当該返還を証する受領書を提出できないからといつて、右は単に返還に際し、「預り書」の受戻もしくは受領書の交付の要求を失念したにすぎないものであつて、これをもつて「レジペーパー等の返還の事実はない。」と主張するのは失当である。

なお、後述のとおり、被告は、本件更正処分については、推計課税ではなく、実額課税の方法により行なつたものであるから、レジペーパーが返還されていたか否かは本件更正処分の適法性を左右するものではないというべきである。けだし、原告が、「レジペーパーが原告に返還されていない。」旨攻撃するところの趣旨は、被告が推計課税を行なつたことを前提として、「レジペーパーが存在するにもかかわらず、これが存在しないとして推計課税を行なつたのは違法である。」とする点にあると解されるからである。

同4(四)は争う。

後述の如く、本件更正処分は、実額算定に基づく、正当なものであるから、本件加算金額賦課決定処分も正当であつて取消されるべきいわれはない。

3 同5は争う。

三 被告の主張

1 被告は、昭和四八年八月二三日、原告代表者から、昭和四七年一月一日より昭和四八年七月三一日までのレジペーパー一八束及び公給領収証控一三冊の任意提出を受け、このレジペーパー(乙第六号証の一ないし五は、レジペーパーの一部を被告所属の係官がコピーしたものである。)の記録に基づき、以下の方法により原告に対する料飲税の課税標準額及び課税額の実額を算出したものであり、このような方法による課税方法は、真の意味の実額課税と評し得るものであつて、決して推計課税ではない。

2 レジペーパーには、一組の客の支払の都度、その注文にかかる飲食物を示す記号(以下「飲食記号」という。)及び当該飲食物の単価が記録され(同一種類の飲食物が二個以上注文された場合にも、一個ごとに飲食記号と単価が記録されている。)、その下段には、一組の客の支払つた合計額及び合計額を示す「T」(トータルの意と解される。)の文字が記録されている(なお、当該合計額の左側に記録されている飲食記号は特に意味はない。)。

なお、被告所属の係官が原告代表者の説明によつて確認したところによれば、飲食記号が示す飲食物の内容は以下のとおりである。

焼ヽヽヽ蒲焼(うなぎ定食、川魚定食を含む。)

重ヽヽヽうな重

丼ヽヽヽうなぎ丼

鯉ヽヽヽ鯉料理全般

玉ヽヽヽ玉子料理(牛久丼を含む。)

吸ヽヽヽ吸物

飲ヽヽヽ飲物全般

Mヽヽヽその他料理

飯ヽヽヽご飯

3 しかして、被告は、レジペーパーの記録内容について以下の基準により、一人一回の飲食行為が料飲税の免税点(本件係争年度当時は九〇〇円。)を超えるか否かを判断し、その免税点を超える課税対象となる飲食行為を調査票に転記した。

(一) まず、原告の営業状態は「うなぎ料理」を主力としていることが明らかであり、したがつて、うなぎ料理が含まれない飲食行為は一人当りの料金も免税点以下である場合が多いとみられるので、これについては課税対象外とした。

(二) 一組の注文にかかる飲食行為の料理の単価がいずれも免税点以下である場合は、比較的まれであつたため、当該飲食行為は、うなぎ料理を含む場合でも、便宜課税対象外とし、調査票に転記しなかつた。

(三) 次に、うなぎ料理が含まれる飲食行為については、左記のような基準により一組の客の人員を判定し、当該一組の客の注文による飲食行為の合計料金額を右人員で除して得た金額が免税点を超えるものを課税対象として、そのまま調査票に転記した。

(1) 一組の飲食行為がうなぎ料理のみである場合は、うなぎ料理にかかる飲食記号(「焼」、「重」、「丼」。ただし、前述のように、合計額の左側に記録されている飲食記号は考慮しない。)の数をもつて人員数とした。

(2) 一組の飲食行為のうちに、うなぎ料理とそれ以外の料理(飲食記号の「吸」、「飯」、「飲」を除く。)が含まれている場合は、うなぎ料理にかかる飲食記号の数と、当該うなぎ料理以外の料理の飲食記号のうち、その単価から判断してうなぎ料理を飲食した客とは別の客が飲食したものと判断できるものの数との合計をもつて一組の客の人員数とした。

4 右によつて作成した調査票に対し、被告はさらに、以下の事項を考慮して再検討を加え課税標準額及び課税額を決定し、本件更正処分を行なつた。

(1) 更正処分の額の総額が、原告の担税力に比して著しく過大とならぬように配意すること。

(2) 各月の更正処分の額が原告の業態から予想される年間を通じての繁閑の度合いに比して均衡のとれたものであること。

(3) 免税点を超えるか否かの判定の要因である人員の判定については、特にうなぎ料理以外の料理にかかる人員の判定について見直しをすること(この結果、例えば、昭和四八年四月一七日のうちの一組((乙第六号証の四))のレジペーパー上、「焼 一、六〇〇」「焼 一、六〇〇」「焼 一、六〇〇」「飲 一五〇」「飲 一五〇」「飲 一五〇」「飲 七〇」「T 五三二〇」と記録されている分についても、通常は三人で一六〇〇円の蒲焼定食三人前と一五〇円の日本酒三本、七〇円のジュース一本を飲食したものと考えられ、一人当りの金額は当然免税点を超え課税対象とすべきところ、本件更正処分においては、強いて言えば七人でそろぞれ一品を飲食したと見る余地もあるとして、あえてこれを非課税としたものであり、他にも同様の例が多数存するのである。)。

しかして、このようにして作成されたのが料飲実額調査書(乙第四号証の一)である。すなわち、乙第四号証の一は、右のようにして再検討を加えた結果、修正を施した分の調査票と、修正の要なしとされた当初の調査票とを合体して編綴したものであり(これに対し、乙第三号証の一((調整前の調査票))は、右再検討の結果、修正を施された、もとの調査票を編綴したものであり、乙第三号証の二((料飲実額調査資料(補助分)))は本件係争時以前の分についての調査票である。)、被告は、前記料飲実額調査書(乙第四号証の一)に基づいて本件更正処分を行なつたものである。

なお、レジペーパーから、右調査票(乙第三号証の一、第四号証の一)に転記する作業に従事した被告所属の係官の氏名は別表第三の1ないし4「レジペーパーから調査票に転記した状況」記載のとおりである。

5 被告は、右のような方法により、極端とさえいえる程にまで原告に有利となるように、課税対象額を算出した結果、本件更正処分対象期間中における原告の総売上高六二六九万二七八〇円のうち、実に六四・八四パーセントが非課税分となり、課税対象分は、総売上高のわずか三五・一六パーセントにすぎない。これは、別表第四の1ないし4「課税対象分割合表」に示すとおり、原告方の近隣類似営業の他店舗及び原告自身の最近年度における総売上高に占める課税対象分の割合をはるかに下回るものであつて、このことからも本件更正処分が適正であることが裏付けられるのである。

四 右被告の主張に対する原告の反論

1 被告は、「本件更正処分は、原告提出にかかるレジペーパーに基づいて作成された調査票に対し、さらに見直し作業を行ない、一つ一つの飲食行為について課税対象か否かの認定をしたのであつて、実額課税である。」旨主張する。しかしながら、右の見直し作業の実体は、要するに、調査票に転記した額のうちの、月間の総売上高の一割五分から二割を非課税にするという基準のもとに月の前半につき調整した場合は後半については調整しないというものであり(右作業を直接担当した鮎川係官の証言)、一つ一つの見直し作業については何の根拠もないのである(このことは、日によつて、非課税の対象となる飲食行為の割合が著しく異なることによつても明らかである。)。もし、右の見直し作業が、一つ一つの飲食行為について、被告主張のようにできるだけ原告に有利に認定しようとするならば、ほとんどすべての飲食行為は非課税扱いにされるほかないであろう。

被告の右のような課税方法はとうてい実額課税ということはできず、明らかに推計課税といわざるをえないが、右の一割五分ないし二割を非課税とするという基準の合理性について、被告は何ら主張、立証していない。したがつて、本件更正処分は明らかに違法である。

2 被告は、原告に対する課税標準の実額認定の方法が合理的であることを裏付けるものとして、原告方近隣における「鶴舞家」「パーク水神」における料飲税の申告状況との比較、及び原告における近年度の料飲税の申告状況との比較において、本件更正処分における非課税分の割合は著しく高い旨主張するが、「鶴舞家」「パーク水神」ともいずれも風俗営業店であつて、免税額がないのであるから比較の対象として適切でなく、また原告は本件更正処分後、前売食券制度を廃して追加注文がとりやすい後払い方式に変更しているので、非課税対象分の割合が減少しているのは当然のことである。

したがつて、被告主張事実は、何ら本件更正処分の合理性を担保するものとはなりえない。

第三証拠<省略>

理由

一 請求原因1ないし3の経緯で本件更正処分がなされた事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、本件更正処分における課税標準額の認定の根拠が不明確であるか否かについて検討する。

1 被告は、「本件更正処分は、『第二当事者の主張』のうちの『三 被告の主張』1ないし4欄記載の方法に従つて課税標準の実額を把握し、これに基づいて課税額を算出した。」旨主張し、成立に争いのない乙第四号証の一、第六号証の一ないし五、証人鮎川弘の証言によれば、被告が、右主張の方法に従い、課税標準額を算出し、これに基づき、本件更正処分を行なつた事実が認められる。

2 被告は、「被告の右の方法による課税は、実額課税として適正である。」旨主張する。

ところで、実額課税と推計課税は課税標準を認定するための方法の差異ではあるが、実額課税といいうるためには、帳簿書類等の直接資料により課税標準の実額が把握できうるものでなければならないところ、被告が本件更正処分において基礎資料としたレジペーパー(乙第六号証の一ないし六はその一部の写であるが、その余の分についても記載方法は同様であつたことが推認される。)によつては、料飲税の課税標準の実額を把握することは不可能であるというほかなく、他に、料飲税の課税標準の実額を把握しうる証拠はない。また、右実額を認定するに足る資料の存することも認められない。

すなわち、地方税法上、料飲税は一人一回の飲食行為に対し、その飲食代金が免税点(本件係争時、九〇〇円であつたことは当事者間に争いがない。)を超える場合に、その代金の百分の一〇の税率で当該行為者に課税されるものである。したがつて、料飲税の実額を把握するためには、一人一回当りの飲食料金がいくらであるかが、証拠により裏付けられていなければならない。

しかるに、前掲乙第六号証の一ないし五によれば、被告が本件更正処分の基礎としたレジペーパー(及びこれを転記したとされる乙第四号証の一の調査票も同様。)によつては、一回当りの飲食における飲食記号、代金及びその合計額は判明するものの、それが何名によつてなされたかは一義的に明らかにすることは不可能というほかないから、ひいては、一人の一回当りの飲食料金を明らかにすることはできないといわざるをえない。けだし、原告代表者本人尋問の結果によれば、被告も認めているように、家族連れなどが注文する場合、例えば子供二人で一個の料理を注文する場合や、子供は飲物だけで大人は料理のみ、あるいは料理と飲物を注文する場合がありうるのであるから、レジペーパー上の記載のみによつては、当該飲食が何名によつてなされているかを断定することは到底不可能であるといわざるをえない。被告は、「人数の判定は、できる限り原告に有利に行なつた。」旨主張するが、できる限り原告に有利になるように人数の判定を行なえば、原告主張のとおり、極端にいえばそのいずれの飲食行為も一人当りの料金が免税点以下になりうることにもなるのである。

要するに、本件レジペーパー上においては、何名によつて当該飲食行為が行なわれたかの判定ができず、したがつて一人当りの飲食料金の確定ができないのであるから、右レジペーパーの記録に基づいて、料飲税の課税標準の実額を把握することは不可能といわざるをえないのである。

さらに、原告代表者本人尋問の結果によれば本件レジペーパーの記録中には、料飲税の課税対象外であるみやげ物としての蒲焼の折詰の売上げが含まれていることが認められるところ、課税標準の実額を把握するためには、この蒲焼の折詰の売上の実額が証拠によつて明らかとなることが不可欠である。しかるに、前記乙第六号証の一ないし五及び原告代表者本人尋問の結果によれば、レジペーパー上は、課税対象となる料理としての「蒲焼」の売上げも、非課税であるみやげ物の「蒲焼の折詰」の売上げも、共に「焼」の飲食記号で示されていて両者の判別はできないことが認められるのであるから、この点においても、本件レジペーパーによつて、料飲税の課税標準の実額を把握することは不可能といわざるをえない。

3 なお、被告は、「一個一個の売上げ記載が、課税対象となるか否かの判断はできないとしても、全体としてみれば、被告は原告の総売上げのわずか三五・一六パーセントに対し課税したにすぎなく、この割合は他の同業者等と比較しても相当に低いから、本件更正処分は適正である。」旨主張するが、その実額の把握の方法が前記のように不明確である以上、たとえ他の同業者等と比較して(本件においては、その比較の方法が十分に合理的か否かも明らかでない。)、その課税対象額の割合が低いとしても、これをもつて本件更正処分が適正であるとすることはできない。

4 以上によれば、被告が本件更正処分をなすに当り、その前提とした課税標準額はこれを採用することができず、また他に課税標準額が原告の申告額を超えるものであることを認めるに足る証拠もない。

三 以上の次第により、その余の点について判断するまでもなく、本件更正処分のうち、原告申告額を超える部分はその根拠を欠く違法なものと言わざるをえないから、取消を免れない。

また、本件過少申告加算金額賦課決定処分も、本件更正処分が違法である以上、その根拠を欠くことになるから、違法なものとして取消しを免れない。

四 よつて、原告の本訴請求はすべて理由があることに帰するからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

別表第一、第二、第三の1~4、第四の1~4<省略>

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